経済学史が専門の若松先生にお話を伺いました。
先生はどんなことを研究されているのですか?
経済学史というマニアックな分野を専門にしています。中央大学でもこの科目を担当しているのですが、実はよく経済史と間違えられるんです…。
経済史というのは、現実に起こった経済的な事実とどういう経済現象が起こったのかを突き詰めていく学問です。それに対して、経済学史では過去の経済学者たちが考えた経済理論や経済思想がどのようなものだったのか、そしてそれが時間を重ねるにつれてどのように変化し発展してきているのかを研究します。
経済学史を勉強すれば、一般的な経済学だけを学ぶのではなく、過去の考え方を学ぶ必要性を知ることができるんです。
経済学史を研究しようと思ったきっかけを教えてください
正直に言うと、数学を使いたくなかったからなんです。
(鹿児島大学の)経済情報学科に入ったときは別にそこまで経済学に興味があるわけではなくて、1年前期からすぐにミクロ経済学の授業があったのですが、数学に苦手意識があって、数学色の濃いミクロ経済学を面白いと感じることができませんでした。
そんなときある先生が、 数学を一切使わない、経済学史に関する授業をしていたんです。数学を使わなくても、「頭の中で論理を組み立てながら理解していくという方法でも経済学を考えてもいいんだ」とけっこう衝撃で。それがそういうことを勉強しよう、そういうゼミに入ろうと思ったきっかけです。

これまでで一番大変だった時期はいつですか
博士課程に進学した時ですね。
私は鹿児島出身で学部と修士課程までは鹿児島大学にいて、博士課程で初めて地元を離れ神戸大学に編入学しましたが、そこでの必修の科目、例えば入ってすぐの上級ミクロ経済学が、それこそもう数式だらけなんですよ。それもちょっとやそっと勉強すれば理解できるような数式じゃなくて、授業に出ても何を言っているか理解できない。
修士課程の院生も一緒に受ける授業で、みんなはすごい頷きながら聞いていて、これ分からないの自分だけなのか、自分が今まで勉強してきたのはいったい何だったんだろうと落ち込んでしまったのを今でも覚えています。
それで数学的要素が強い現代経済学を、自分とは関係ないものだという風に思い込んでいたことを反省して、現代経済学を理解した上で経済学史で行なっている研究がどう役立つかというのを考えなければいけないと思い直しました。
それで学部生が読むミクロ・マクロ経済学のテキストをいくつか集めてみて、最初のページからちょっとずつ読み進めていくっていうのをやりましたね。数学的要素でわからないところがあれば、ちょっと極端な話ですけど、小学生中学生ぐらいの単元まで遡ってから少しずつそのレベルを上げて、再度テキストの分からないところに当たる、みたいなことをやってましたね。
他の人より時間がかかっても、1つ1つ基礎から積み上げていくことに価値があると今は感じています。

ゼミについて教えてください
2年生も3年生も前期はテキストを設定して、みんなで資料を作りながら輪読をします。今年の2年生前期はマルサスの『人口論』(1798年出版)を読みました。基本的には日本語訳があるものを使いますが、そういう古典を読みこむというゼミは多くはないと思います。
2年生の後期は、前期に読んだ本の経済学史に関する内容を現代の社会問題に応用する資料をグループワークで作るといったリサーチ活動を行います。3年生の後期は、経済学史および経済思想に絡めた内容のプレ卒論のようなものを5000字くらいのショートペーパーで書くっていうのをやってます。
4年生になっていきなり卒論を書くのは大変だと思いますが、3年次でショートペーパーを書くことでノウハウを培うことができるので、あとはそれを拡張してもよし、あるいはまた一からやってもいいし、という感じです。

最後に、若松先生が考える経済学の魅力を教えてください
世の中の仕組みがわかるのはおもしろいなって思います。政治や経済のニュースが高校生の頃全然わからなかったわけですけど、そういうことが経済学を学ぶにつれて徐々に理解できるようになってきました。
あるいは、歳を重ねるほどおもしろくなる学問だという気がします。
人は歳を重ねるにつれて、いろいろな課題に直面していきます。それらとどう対峙すればいいのかっていうのを経済学という視点が導いてくれるんじゃないかなって思いますし、そういうときが経済学やっててよかったと感じる瞬間ですね。
ありがとうございました。
取材後記
僕が経済学部に入学して一番驚いたことは、思っていた何倍も授業で数学を扱うことです!
僕は英語・国語・日本史の文系3科目で受験したので、高校数学の穴が多く1年次はなかなか苦労した覚えがあります…
しかし、若松先生もおっしゃっていた通り、1つ1つ積み上げていけば必ず理解できると思います。また、数学を使わなくても経済学に触れることができるということがこの記事で伝わったら嬉しい限りです。(学生記者:田中)

