今回は労働経済学がご専門の阿部正浩先生にお話を伺いました。大学の先生になるまでのお話やキャリア形成に関する考えなどをお話してくださいました。

—ご専門の学問について教えてください。

労働経済学は労働市場で生じている様々な問題を解決する研究分野。例えば、失業がなぜ発生するか、失業をなくすにはどうしたら良いのか、男女間や国籍、人種間の賃金の差はなぜ発生するのかといった問題を研究しています。最近であれば、働き方改革やブラック企業などの問題もありますね。

—その分野に興味を持ったきっかけは何ですか。

きっかけは、たまたま。労働経済学を研究したくてこの道に入ったわけではありません。大学1年生の時に面白い語学の先生がいて、こんな幸せで楽しそうな仕事は他にはないんじゃないかなと(笑)。
そこで、大学の先生はどうやったらなれるのかというのを本気でゼミの先生に聞いたら、大学院に行くのがベストと言われ、だったら行こうと思って大学院に行きました。

大学院に行ってから、賃金関数という、人々の賃金が何で決まるかというような研究をされていた先生の手伝いをすることになり、自分もやってみたいと思いました。それで、ジェイコブ・ミンサー(ミンサー型賃金関数で有名な経済学者)の本を一緒に読もうという話から労働経済学に入っていきました。

—どんな学生生活を送っていましたか。

1年生の時は真面目で成績はほとんどAだったかな。大学の授業ってこんなに楽にAを取れるんだと思って、2年生ではあまり大学に行かなかった。海でぼーっと本を読んでいたりしたらあっという間に成績はダメになった。3年生からはちゃんと勉強していました。

—当時どんな本を読んでいたのですか。

小説も読んだし、歴史にも興味があったので古典も読んでいました。ものすごい数の本を読んでいましたね。授業がなければ図書館で本を読むか、ビデオを借りて観るかでした。

—現在、阿部先生のゼミではどんなことをしていますか。

基本的に学生が好きな研究をやればいいと言っています。あまり真面目なのではなく、学生でしか発想できないような面白いものをやるように言っていますね。

これまでの卒論では、例えば、「社長さんの名字はどんな名字?」とか。
社長の人の名字をいっぱい集めていくと、一般の人と明らかに違うんですね。その名字の分布の違いを見て、なぜ違うのかを考える。そうすると、格差が世代を通して繋がっているということが見えてくる。

あとは、女子ゴルファーの美人度と成績の関係を調べた学生もいました。容姿に関する評価とゴルファーとしての能力がかけ離れている可能性があって、能力が高くても容姿がだめだとあまり評価されない、なんてことがあったりね。
そういった人間社会のおかしなところを暴いていくということを研究するように学生たちには言っています。

経済学というのは、表面で起きている問題の裏側を暴いていく、そのメカニズムが何なのかを考えるもの。昔、「トイレの匂いをシャットアウトするには元から匂いを断たなきゃだめだ」というCMがありました。見えているものだけ見ていても問題解決にはならない。その裏側で何が起こっているのか、人間社会の行動メカニズムを暴いていくということです。

—学生が今やるべきことは何だと思いますか。

今、これから残りの人生をどう生きるかを真剣に考えたら良いと思う。これから60年以上を生きていくためのベースを大学生の時に作っていると考えたら、ベースをどうやって作るかというのは60年間をどう生きるかと同じ意味になるはずですよね。

—自分のやりたいこと、興味のあることがわからない学生が多いと思いますが…

普通、自分が何に興味があるかなんてわからない。決まっている人もいるけれどそういう人は少ない。僕も多分そうで、ただなんとなく楽そうだからやってみようかなと大学の先生になっただけです。現実は全然楽ではなかったけどね。

自分の経験でいうと、自分の興味がわからない人たちにとっては、その時その時に、与えられたものを確実にやっていくことを積み重ねていくことが大事。そのうちに「あ、楽しいな」と思うようになってきます。僕も最初研究しようとは思っていなかったし、面白そうとも思っていなくて、研究をやりだしてから面白くなった。

学生のみんなは就職をかなり大きく捉えますよね。でも就職の反対側には暮らしという家庭での生活があって、どっちも人生だから。どちらかばかりだともう一方が疎かになってしまいます。

—そういった考えから「キャリアデザイン」という授業を開講しているのですか。

現場で仕事をしている人たちに来てもらって、なぜこういうキャリアを辿ったのか、色んなパターンがあるというのを学生には見せたい。中には「子どもの頃からこれがやりたかった」と言って今の仕事に就いている人もいれば、よくわからないけど今の仕事をしている人もいる。

学生のなかには将来の事をあまり考えていないという人は多いかもしれない。周りから「早く自分の好きなことを探せ」と言われて、嫌だなと感じている人もいるかもしれない。だから授業では、そういうことを考えていなくても、一人前になっている人もいるということを見せたかった。それに、一人前になるまでにどういう苦労があるのかというのを見てもらいたかった。

〈最後に〉大学という場について

みんなは、わからないことがあったときに自分のスマホで調べるでしょう。それで、「ああそうか」で終わってしまう。自分の知識として貯めなくてもスマホに知識があると思っているから、自分で知識を蓄えようとしていないのかもしれない。だけど、将来はみんなが社会に色んな意味で貢献していくと思うけれど、そのときに知識の量というのは大きく影響すると思う。大学は知の宝庫だし、知を創出する場だから、大学時代に色々の知識を吸収し創造することは大事なことだと思う。

高校までの勉強は、これまでの人間社会がどう現在にたどり着いたのかを教えてもらうものだと思っています。ところが大学は、高校まで学んだことを基礎にして、人類が今まで経験していないことや、今まで見出されていなかったことを発見する、イノベーションを起こすための人材を育てる場だと、少なくとも僕は考えています。
だとすると、大学生に期待されるのはこれまでの知識を蓄えるだけじゃなく、新しいものをイノベートするというのが大事。そのためにも基礎の部分はあった方が良い。知識やアイデアをどちらも上手く融合させて新しいものを作れる人材を育てられたら良いなと思います。

取材後記

私は過去に、阿部先生の授業を履修していましたが、普段の授業では聞けないようなお話も聞くことができ、先生の新たな一面を知ることができました。特に、キャリア形成に関するお話はとても心に響き、印象的でした。(写真左|学生記者:原田)

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