「正しい情報は自らの足で」。経産省を経て鹿児島県庁で活躍するOBは今もゼミの経験を大事にしていました。

学生と卒業生

唐 成ゼミのメンバーが、中央大学経済学部の卒業生である平林 孝之さんにオンラインインタビュー。
経済産業省でグローバルに活躍したのち、2021年4月から鹿児島県の商工労働水産部部長に就任した平林さん。ゼミ活動中心に過ごしたという大学生活やそこで得た力、その後のご活躍をふまえて、今の学生へのアドバイスをいただきました。

写真は鹿児島の伝統的工芸品・本場大島紬(ほんばおおしまつむぎ)を着用した平林さん。桜島を望む、鹿児島県庁最上階のコワーキングスペース「かごゆいテラス」にて。

中央大学での大学生活について

大学時代にどのような生活を送ってきたのでしょうか。また大学時代の学びが社会人になっての仕事にどのように関連しているのでしょうか。

大学時代は田中拓男ゼミ(※1)に所属し、第23期生です。ゼミ活動中心の生活で、貿易や経済など様々な本を読んでいました。勉強だけでなく、高校時代から続けてきたバスケットボールのサークルに所属したり、長期休暇ではバックパッカーとして海外へ行ったりといった大学生活を送りました。

初めて海外を経験したのは大学時代で、ゼミ活動の中で先輩の海外調査に同行するというものでした。海外の異文化体験や日本人と異なる考え方を理解することができ、視野を広げることができたと思います。海外での経験はその後の就活にも影響を与えました。

平林さんのように、海外に行ってみたいと思ったらチャレンジしてみると、講義だけでは得られない大切な価値観や世界観などを身につけることができますね。それが以降の人生の選択にも繋がりますので、常に何かに興味があれば迷わず行動し、挑戦してみたいと思いました。

※1・・・田中 拓男 先生は中央大学名誉教授。2008年 経済学部教授 定年退職。専門は国際経済学、開発経済学、計量経済学。

ゼミ活動が今に活かされている

どんなゼミに所属し、ゼミ長としてどのような活動をしてきたのでしょうか。

実は一次募集では希望するゼミに入ることができなかったんです。二次募集でご縁のあった田中ゼミと出会いました。

2年次は主に国際貿易理論に関する書籍をゼミ仲間と輪読し、3年次からはテーマ別に班ごとに分かれてそれぞれチームで活動します。私は欧州の通貨統合が欧州経済にどのような影響を与えるのかについて研究しました。
文献調査を基本としつつも、ロンドンにあるシンクタンクや日系企業にヒアリングするなど、田中ゼミの特徴であったフィールドワークにも力点を置き、研究成果を仲間とともにまとめていきました。

ゼミ長となり、個性の強いメンバーをまとめていかなければなりませんでした。今風に言えば多様性ということですが、班別の研究スタイルなので調整型のゼミ長として「協調性」も大事にしつつ、ゼミのメンバーを引っ張っていました。

ゼミ活動が今のお仕事に活かせていることがあれば教えてください。

ゼミ活動では勉強・研究だけでなく、対人関係・どのようにチームを牽引するかの力が磨かれましたし、「フィールドワーク」をゼミで身につけたことが、今の仕事に役立っています。

デジタル化によってネットでいくらでも情報が収集できますが、その真贋を見極められるかが重要で、一番大切なことは生の情報をどうやって入手するか。そのためには自分の足で稼ぐ、というのが基本です。安易な解をさがすのではなく、足で得られた情報をもとに自ら立てた仮説を検証し、分析し、解を求めていく、という基本動作が今なお活きています。

私もゼミ長を担当する経験があり、チーム全体のパワーを最大限に発揮させるために、ゼミ長としてどのように運営することが最善なのかについて考え続けていました。平林さんのおっしゃる通り、協調性を大切にし、個性のあるメンバー全員の特徴を引き出し、「1つのチーム」としてメンバーそれぞれの力を一体化にまとめることが何より重要だと強く共感しました。

就職活動とその後のキャリアについて

いつ頃から進路とキャリアプランを決めたのでしょうか。また、民間企業ではなく経済産業省という行政機関で公務員として就職を選んだのはなぜでしょうか。

大学3年生の夏に国家公務員を目指すことを決めました。かっこいい理由を期待されていたかもしれないですが、正直に言えば、民間企業のように営業ノルマのある仕事は敬遠したいと考えていたからです。だけど、あながち不真面目でもなく、営業ノルマがないと言うことを裏返すと、利益を第一に考えずに世の中のために働くこともいいなと考えたからです。

最終的に経済産業省と国税専門官から内定をもらい、海外に大きな関心を持っていたので、1998年に経済産業省へ就職しました(入省時は通商産業省)。税理士になる資格は失いましたが(笑)、その後、日本貿易振興機構(JETROジェトロ)ベルリン事務所へ出向していたときは、本省の政策形成のために現地の情報収集などを担当したり、本省地球環境対策室では室長として産業政策の観点から気候変動対策を担当するなど、グローバルな舞台で仕事の経験をしました。

就職活動は就職先についての理解だけでなく、自分を深く知る機会にもなります。平林さんの大学生時代の海外バックパッカーの経験は、公務員を目指すきっかけにもなったのではないかなと感じました。
また、平林さんが大学3年生の時から公務員を目指し、かつ合格したように、いざ目標を決めたら一生懸命に努力することが目標を実現させるキーになりますので、「チャレンジ精神」と「継続的な努力」を常に心がけて物事を進めていきたいと思いました。

現在の仕事、 鹿児島県商工労働水産部について

現在、鹿児島県商工労働水産部の部長として、主にどんなお仕事をされているのでしょうか。やりがいや面白みを感じることや、大変なことなどがあれば教えてください。

鹿児島県は1人あたり付加価値額が全国平均より低く、「稼ぐ力」の向上が求められています。少子高齢化のスピードが全国と比較して早く(※2)、特に労働人口の減少に歯止めがかかりません。その他、女子学生の大学進学率が30%台と低く(※3)、女性が活躍するにあたり構造的な問題を解決していかなければならないなど様々な社会課題を抱えています。

課題山積の本県ですが、 鹿児島県商工労働水産部は、産業政策関係の①商工政策課②産業立地課③中小企業支援課、企業の海外展開や県産品の販路拡大、そして伝統的工芸品の振興を図る④販路拡大・輸出促進課、ワーケーションやUIターン移住促進などを担当する⑤産業人材確保・移住促進課⑥水産振興課⑦漁港漁場課、雇用環境改善を担当する⑧雇用労政課、最後に再エネの推進等を担う⑨エネルギー対策課、の9つの組織でこれらの課題に取り組んでいます。

また、スタートアップ、宇宙事業、ドローン事業など新たな産業の育成など、鹿児島県の将来を支える産業の育成にも取り組んでおり、県政発展に幅広い分野で事業を実施しています。

経済産業省で豊富な海外の経験を得た平林さんは現在、国内の舞台で鹿児島県の多様な社会課題に向けて取り組んでいます。このお話を伺って、常に環境の変化に応じて勉強し続けることが欠かせないと思いました。
また、平林さんが率いる商工労働水産部が新型コロナウイルス感染症の収束後を見据えて様々な事業に取り組んでいる姿に魅了されました。私たち学生もコロナ禍によりオンライン授業に変わるなど多くの変化を経験してきましたが、予期せぬ状況が起きても恐れずに、その時にできることを考えて取り組むという姿勢に刺激を受けました。

※2・・・鹿児島県の高齢化の現状等について|鹿児島県公式WEBサイト
※3・・・女子の大学進学率が全国最下位の鹿児島県 担当課の説明は「短大教育が充実しているから」|南日本新聞

学生たちへのアドバイスと期待

岐路に立つ学生の皆さんに伝えたいことやアドバイスがあればぜひお願いします。

現在の学生さんたちは、生まれたときからデジタルツールに囲まれ、インターネットによって多くの情報を容易に入手できる環境にあります。このような環境においては情報の正確性を見極めることが非常に大事になります。

高校時代はある問題には必ず1つの正解があり、そして大学時代にはある問いに対して回答は複数あり(例:あるお題に対する学生のレポート内容はみんなそれぞれ違う)社会に出ると立場によって答えが異なり、また正解も異なり、その答えを自分で探さなければならなくなります。
そのときに、世の中に出回っている情報をいかに正確に客観的に見極められるか、そして多面的に検討し、仮説を立て、自らの頭で思考できるかが重要になってくるのではないでしょうか。

企業であれ公務員であれ、皆さんは多くの選択肢の中で、どの道が自分に適しているのか、自己分析を通して就職活動に臨まれると思います。

結果として、自らが選択した世界で、自分はいかなる行動をすれば世界をより良い方向にできるのかを常に熟考し、正しい情報を自らの足で収集し、選択し、検証し、実証していただきたいと思います。そして、日本で、世界で活躍し、よりよい社会の発展に貢献していただけることを期待しております。

「①情報の正確性を見極める力」と「②論理的思考と正しい行動」という平林さんからの2つのメッセージを深く心に刻みました。
社会に出たときに、多くの情報に振り回されないように、常に勉強し続けて知識を蓄えることが正しい判断に繋がると思います。そして素晴らしい先輩のように自分の経験と強みを活かして社会に貢献していきたいです。
(取材:唐成ゼミ|カク 訳臨イリン

【平林 孝之さん 略歴】
1998年3月 中央大学 経済学部卒業
1998年4月 通商産業省(現:経済産業省)入省
様々なポストをはじめ、日本貿易振興機構(ジェトロ)ベルリン事務所次長、地球環境対策室長、大臣官房グローバル産業室企画官、特殊関税等調査室長を歴任。
2021年3月 経済産業省 辞職(出向)
2021年4月 鹿児島県商工労働水産部長 就任

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