コマツ、中小企業診断士、そしてJICA海外協力隊。未来への想いを胸に突き進む卒業生

学生と卒業生

2019年に経済学部国際経済学科を卒業した薮下 拓紀さんにお話を伺ってきました。薮下さんは2023年7月より、勤務先の株式会社小松製作所の休暇制度を活用し、JICA海外協力隊(以下、海外協力隊)の隊員として、アフリカ・ガーナで中小企業支援の活動を行います。

今回は、ガーナ渡航前の貴重なお時間をいただき、海外協力隊としての活動内容や参加前の想いについてインタビューしたので、ぜひご一読ください。

学生時代に見つけた自身の興味の先

現在は、小松製作所(コマツ)で勤務されていると伺っております。ご担当されている業務の内容を教えてください。

栃木県にある小松製作所の小山工場で働いています。小山工場は、建設機械に搭載するディーゼルエンジンの組み立て、製造を行っています。私はその中で、車体の動力となる油圧部品を扱う「エンジンパワートレイン調達部」に所属し、直近では海外エンジンメーカーの担当をしていました。
調達の仕事は、ひと言でいうと工場で使用する部品を協力企業から購入する仕事です。具体的には、アメリカやイギリスにある担当企業の工場との価格交渉や、新機種の部品について、どのような図面にすれば効率よく安価にモノづくりができるかといったすり合わせを行っていました。

建設機械で世界的なシェアを誇る小松製作所(コマツ)

なぜ今の仕事に就こうと思ったのですか?

日本のモノづくりに携わりたい、特に社会基盤を支えるインフラ産業に何らかの形で関わりたいという想いがありました。その理由は、長い時間軸のうえで、国が発展し、人々の生活を豊かにしていくためになくてはならないモノがインフラであると考えていたからです。
中でも、関心が強かったのが建設機械だったので、今の会社に就職したいと思うようになりました。

中央大学経済学部での学びや経験は、ご自身のキャリア選択に何か影響を与えましたか。

はい。私は在学時、林光洋ゼミに所属していました。林ゼミを選択した理由は、高校生の頃から海外に興味があったからなのですが、そこでの経験は自身のキャリア選択に少なからず影響を与えたと思っています。
ゼミで学ぶうちに海外への興味をより強くもつようになった私は、学生時代にネパールへ旅行に出かけました。ネパールは道路インフラの状態がとても悪く、旅行中、地方までさまざまなサービスが行き届かない状況を目の当たりにしました。日本に帰国したとき、空港からの帰り道で道路が平らなことに感動したのを覚えています。
道路が整備されているからこそ、人々が快適に移動し、モノも運ぶことができるようになります。当たり前すぎて気づいていなかったことでしたが、そんな当たり前を支えているインフラや、それらを整備する建設機械に強く関心をもつようになりました。

薮下さんと経済学部の林先生

旅行先にネパールを選んだのは、やはり林ゼミで途上国について学ぶ中で、そういった国に関心を抱いたからですか?

そうですね。林ゼミは、やはり一緒に学ぶゼミの仲間に、途上国に強い興味や関心をもっている人がいたり、実際に途上国で働いている先輩方に会う機会があったり、といった環境だったので、私が漠然と「海外」に対して抱いていた興味・関心が「途上国」へ向くようになっていったのだと思います。

先ほど高校生の時から海外に興味があったので林ゼミに所属したとのことでしたが、他に何か決め手はありましたか。

元々興味があった海外の分野だったという理由は大きいですが、他にも自身の力を伸ばすためには、たいへんな環境、真剣になれる環境に身を置くのがよいと感じていたからというのも理由のひとつです。指導教員の林先生はいつも「君たちの才能はまだ開花していない」と言っていました。まさにその通りで、せっかく大学に進学したからには、しっかりと勉強をして、潜在的にもっている自らの能力を顕在化させ、大きく成長したいという想いがあったんですよね。

“今の自分にできること”を見つけ、海外協力隊へ参加を決意

それでは、海外協力隊について詳しくお話を伺いたいと思います。今回は現職参加されるとのことですが、期間などを教えていただけますか?

会社の休暇制度を利用し、現職参加で2年間、海外協力隊として活動する予定です。

海外協力隊への参加を決めたきっかけについて教えてください。

ずっと海外で働くこと自体への興味はありました。就職活動のタイミングで、卒業してからそのまま海外協力隊として活動することも考えてはいたのですが、当時は自身が海外に行って自信をもってできる”何か”がなく、何か貢献したいけど、どう貢献すべきかわからなかったため、悩んだ末に就職を選びました。
そして入社後、調達の仕事を通じて、取引先である日本のモノづくりを支えるような中小企業の経営に興味をもち、2022年2月に中小企業診断士の資格を取得しました。

そのタイミングでもう一度、自分がこれから何をしていきたいかを考えたときに、ちょうど中小企業診断士の方がプロジェクトをしている海外協力隊の案件を見つけたのです。自分が今できることと派遣先で求められていることが一致したと感じたので、参加を決めました。

中小企業診断士はいつから取ろうと思っていたのですか?

社会人2年目ぐらいからですね、仕事をする中で専門領域がほしいと感じるようになりました。職場には理系の専門知識をもった人が多く、また取引先も何十年とその部品を作り続けてきたプロフェッショナルたちなので、そういった相手と対等に話ができるように自分も専門知識を身につけたいと思ったのがきっかけです。

今回薮下さんはガーナで中小企業振興プロジェクトに参加されると伺っています。具体的に派遣先ではどのようなことを行うのですか。

派遣先のガーナでは、ガーナ企業庁傘下のビジネスアドバイザリーセンターに配属されて、現地企業に対して経営・起業支援や日本の「カイゼン」、品質管理などの指導を行う予定です。これまで小松製作所で培った知識や経験を活かすことのできる要請内容となっています。

具体的には、実際に現地の企業を訪ね、財務諸表を一緒に見ながら個別に相談・対応したり、ビジネスアドバイザリーセンターに集まった企業向けにワークショップを開催したりする予定です。今回のプロジェクトを通して関わる現地の会社は、これまで関わりのあった製造業以外にも、飲食店や農家などさまざまな業種があるので、私自身にとっても、勉強になることがたくさんあると思っています。

薮下さんがお持ちの中小企業診断士はあくまで日本の資格だと思いますが、中小企業診断士の資格をもっていることで“現地で活かせること”には、どのようなことがあるとお考えですか。

中小企業診断士取得を通じて得た知識は、あくまで日本企業を対象としたものであり、現地で直接活きることは少ないかもしれません。ですが、日本の経営や企業支援について学んだことで、現地のやり方と比較することができるようになったと考えています。比較を通じて、日本のやり方のいいところを現地に伝えていきたいです。

現在(インタビュー時)は、派遣前の研修期間中だと伺いました。派遣前研修での具体的な研修内容について教えていただけますか。

期間は2か月間で、主に語学訓練を行っています。1日6~7時間程度で、基本的な語学力のための学習というよりは、現地での業務を想定した実践的な語学を学ぶことのできるワークショップ型の研修が中心です。授業をしたり、レポートを作成したり、かなり実践的な内容を行っていますね。他には、現地の衛生環境について学んだり、現地での安全管理や健康管理の方法や現地の人とのコミュニケーションの取り方などを学んだりもしています。現在は120名弱の人と一緒に研修を受けています。

ガーナでの活動において、どのような課題や目標をもって取り組む予定ですか。

日本の製造業の現場では、数字で現場を見える化し、根拠をもって次のアクションを決定することを大切にしています。しかし、専門家の情報によれば、現地企業の中には、そもそも使用可能なデータが何ひとつなかったり、現場の作業者が計算できなかったりする可能性もあるそうです。そのため、日本の考え方ややり方をそのまま現場にもっていくのは難しいと考えています。現地の人と積極的にコミュニケーションをとりながら、現地に合ったやり方で、ガーナの企業経営者の支援を行いたいと考えています。

ガーナでの活動で、なにか不安はありますか?

生活面では少し不安もありますが、それよりも今は楽しみな気持ちが大きいです。林ゼミでも、海外現地調査を行う際などは、寝る間を惜しんでタイトなスケジュールで活動をしていたので、ゼミで鍛えられた経験が活きるといいなと思っています(笑)

金額や図面上ではない、現場レベルの感覚を身につけて相手と向き合いたい

海外協力隊としての活動を終え日本に戻られた際は、どのような点を小松製作所の職場で活かしていきたいと思っているか、現時点でのお考えをお聞かせください。

日本のモノづくりも、現在は多くの部品や工程において、海外とのつながりは切っても切り離せません。労働人口が減少していく中で、日本の中だけでモノづくりを完結させることは、今後ますます難しくなっていきます。
そのような中で、途上国において現地の企業を現場レベルで見てきた経験は、会社の中でも貴重だと思います。現時点で、小松製作所はアフリカに組立工場をもっていません。しかし、いずれチャンスがあれば、そうした取り組みにもチャレンジしていきたいと思います。

薮下さん自身の、これからのキャリアについての展望を教えてください。

中小企業支援や民間セクター開発の分野で専門性を深め、先進国と途上国の双方がWin-Winとなる形を模索していきたいです。
日本の「モノづくり」はサプライチェーンや外国人労働者を見ればわかる通り、途上国とのつながりなしには成り立ちません。一方で、会社として利益を求める以上、取引先との関係は、完全にWin-Winと言い切るのは難しいのが実情だと思います。しかし、これまで見積もりや技術的な部分でしか話すことのできなかった自分が、中小企業診断士の資格を取得してからは、少しずつ相手企業の立場でも、ものごとを考えることができるようになりました。

まずは、これまでの経験を活かして、JICA海外協力隊としてガーナの現地企業に貢献できるようにがんばります。そして、ガーナという日本とはまったく異なる環境での活動を通じて、途上国における企業経営を肌で学びたいと思います。 どのように想いを形にするかは見えていませんが、日本と途上国の双方のよさを活かすことのできる視野の広い人材になりたいです。

最後に、経済学部の学生に向けて、アドバイスやメッセージをお願いいたします。

私は、ゼミという場で、林先生のお知り合いの専門家の方々やゼミのOG・OB、その他一般企業にお勤めの方々など非常に多くの人とお会いする機会をもらいました。そして、そういった方々と話し、接する機会を自ら積極的に活用したからこそ、今、自分がやっていることに対して興味をもつことができたのだと思います。
皆さんも、是非、さまざまな人に自分から会いに行き、話をし、そのような機会から学ぶことを大切にしてください。

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