国際開発に携わる卒業生へインタビュー。今のキャリアに繋がる、経済学部の学び

学生と卒業生

2023年6月、経済学部「国際公共政策(担当教員:佐々木創教授)」の授業において、開発コンサルタントの堀内愛友さんがご講演くださいました。堀内さんは、2018年に経済学部国際経済学科を卒業後、東京大学大学院での修士課程を経て、現在はパシフィックコンサルタンツ株式会社にて開発コンサルタントとしてご活躍されています。

授業では「開発コンサルタントと国際協力のキャリア形成」というテーマで、堀内さんの実体験を交えながら、開発コンサルタントのお仕事や国際協力について学生にお話しいただきました。

そんな堀内さんに、学生時代のお話や、学部での学びがご自身のキャリアに及ぼした影響など、根掘り葉掘りお話を伺いました!

将来環境分野のプロフェッショナルとして活躍するために、まずは自身の目で現場を確認したい

現在ご勤務されているパシフィックコンサルタンツ株式会社でのお仕事の内容について教えてください。

開発コンサルタントという仕事は、都市開発やインフラ整備・環境問題などの問題を支援する国際協力の現場において、政府や民間企業が立案した援助プログラムを、依頼を受けて実際に援助国現地で実行する立場の仕事です。専門分野は環境で、主にアジアやアフリカの途上国で、「再生可能エネルギーによるCO2の削減」や「気候変動と感染症の関係性」を調べるプロジェクトなどに携わっています。

この仕事についた経緯を教えてください。

高校生の時から、漠然と「将来海外で働きたい」という思いがありました。大学に入り、バックパッカーで海外に行ったり、ゼミに所属して研究を進める中で、「環境分野」に対して興味が出てきて、国際協力の現場で環境を専門として働きたいと思うようになりました。今の仕事を選んだのは、すぐに現場に出て働きたいという思いがあったからです。

同じ国際協力の分野でも、援助プロジェクトを立案するマネジメント側ではなく、プロジェクトの実行者である開発コンサルという業種を選んだ理由は、やはり「現場で活躍したい」という思いがあったからですか?

はい、そうですね。マネジメント側の立場で「政策」や「計画」を検討するにあたっても、やはり少なからず「現場」を知っている必要があると思っています。まずは自分の目で「現場」を見てみないと分からないと思い、開発コンサルタントという職を選択しました。

「現場を見る」という意味においては、経済学部在学中の佐々木ゼミでも、実態調査という形で、タイなどに行くことがあったと思います。そうした経験も今のお仕事で役立っていると感じていらっしゃいますか。

そうですね、まさに、今の仕事の縮図版がゼミだったなと感じています。なので、先生には本当に感謝していますね(笑)

ゼミでは、まず何を解決したいのかという課題を自分たちで設定します。課題設定自体も、現在の政策や他国の状況など様々な観点から調査が必要で、そのうえでその課題を解決するための自分たちなりの仮説を考えだし、最終的に現地でヒアリング調査やアンケート調査を行ったりします。その過程においても、企業の方にアポイントを取るためにメールを書いたり、電話をしたりが必要で・・。本当に今会社でやってることとほとんど一緒で、ゼミでの経験は本当に役に立っているなと感じますね。

ゼミ活動で学んだスキルや視点がまさに現在のお仕事に活かされている感じなのですね。

その通りです。特に指導教員の佐々木先生は、民間企業出身ということもあり、「現場主義」ではないですけど、そういった「現場で活かせる力」を重要視した教育を行ってくださっていたのだと感じています。

漠然と抱く「海外で働きたい」が、ゼミで具体性を帯びる

堀内さんは学生時代にはバックパッカーをされていたということでした。色々な国に行かれたと思いますが、その中でもヨーロッパやアメリカなどの先進国ではなく、アジアなどの途上国が現在のお仕事のフィールドに繋がっていったのは何故ですか。

中高校生の時に吹奏楽の演奏でアメリカに行ったり、ニュージーランドでホームステイをしたことがあったりと、実は中高生の時に先進国に行く経験が何度かあったんです。でも私は、そこに面白さを感じなかったんですよね。田舎出身だったこともあるのか、先進国に行っても東京に行くのとあまり刺激が変わらないなと。

なので、大学生になって、発展途上の国を見てみようと思ったのと、学生でお金がなかったこともあって短期間で安く旅行ができるアジア圏をメインに旅行している中で、いわゆる途上国といわれる国々に魅力を感じるようになっていったのだと思います。

では、大学生の時には既に途上国への興味があったということなんですね。その中で、佐々木ゼミに入った決め手は何だったんですか。

当時、国際的な課題解決をテーマにしているゼミが佐々木ゼミ含め2つくらいしかありませんでした。佐々木ゼミを選択した理由は色々ありますが、私は貧困問題よりも環境問題の方に興味があり、環境をテーマにしていたゼミが佐々木ゼミだったということが一番大きいです。あとは当時の佐々木ゼミの倍率が非常に高く、良いゼミだという噂を聞いていて、入りたいと思ったというのもあります(笑)

実際に佐々木ゼミで活動するうちに、ご自身のキャリアの方向性がある程度固まってきたという感覚はありましたか。

はい。高校時代から漠然と「海外で働きたい」といったイメージを持っていましたが、入ゼミ当初は、自分が国際協力の環境問題の分野で仕事するとは全く考えていませんでした。それこそ、一般的に文系就職先で多いと言われている商社や人材系の会社に就職するのだろうなと。それがゼミ活動をするうちに、環境問題の分野を楽しいと感じるようになり、実際に先生をはじめゼミの先輩にもそういった分野に就職していく人がいたので、選択肢として現在の職業が入ってきたのだと思っています。

ゼミで身についた力 ― 学生時代の失敗と、仲間との協業

堀内さんの学生時代のゼミ指導教員である佐々木創教授にも一緒にお話を伺うことができました。

「現場で活かせる力」というのは、当然入ゼミ当初は身に付いていないスキルかと思いますが、ゼミ活動を通しどのように身に付いていくものなのでしょうか。

佐々木)最初は、とにかく学生にめちゃくちゃダメ出しするんですよ。(笑)

堀内)そうでしたね(笑)私自身は、佐々木ゼミに入る前から、学生団体に所属していたこともあり、企業にアポイントを取る経験などはあった方でしたが、普通学生なんてほとんど社会人と話す機会がないじゃないですか。メールしたりとか電話したりとか、ヒアリングの方法とかも何もわからないので、最初は全部ドラフトを書いて、それを先生にチェックしていただいたりしていましたよね。

佐々木)そうだね、依頼状の確認とかもしたね。

では、ゼミでそうした経験を積み重ねた結果、ご卒業される頃には気が付いたらスキルも身に付いていたという感じですかね。

佐々木)全員ではないでしょうが、やはり主体的に動いた学生はちゃんとできるようになっていたと思いますね。

このあと堀内さんには佐々木先生の演習(ゼミ)にも参加いただく予定だとか。

佐々木)そうですね、ゼミの学生は今ちょうど夏に行う現地調査に向け、準備・計画をしているところです。調査計画がまだまだ出来上がっていないので、堀内さんにも沢山アドバイスをしていただけるといいなと思っています。教員の視点だけではなく、現場で働く人のアドバイスも必要ですからね。

堀内さんからアドバイスを受けて、ゼミ生のみなさんに感じ取ってもらいたいと思ってることなどあれば教えてください。

佐々木ゼミに参加し、学生にアドバイスをする堀内さん

佐々木)自分たちの今の調査計画がまだまだ詳細を詰めきれていないことを理解してもらえたらと思っています。これはよく授業の中でも言っているのですが、学生は「出来ていないということに気づいていない」ことが多々あります、同時に失敗を過度に恐れるところがあるので、余計に“出来ない”という失敗経験自体が少ないんですよね。なので、私のゼミでは落とし穴をあえてたくさん作って“失敗”をたくさん経験させるようにしています。大体まんまと引っかかってくれていますね(笑)
でもそうした失敗経験から学ぶことがきっとあると思います。学生のうちの失敗はいくらでもリカバリーできるし、本当に困った時は私もいくらでも助けるので。とにかく学生には思い切って失敗してほしいですね。

先生による落とし穴が用意されているんですね(笑)堀内さんは、ご自身のゼミ活動を思い返して、落とし穴にはまった経験/印象に残っている出来事はありますか。

堀内)落とし穴にはまったのかは分からないのですが、印象に残っている出来事はあります。実はタイに現地調査に行った際に、チーム内の意見の食い違いが大きな喧嘩に発展してしまったことがありました。本当に大変でしたね・・。

佐々木)ゼミ内での学生同士の意見の食い違いは、だいたいどの代でも起こりますね。現地調査では、1週間という期間一緒に過ごすので、その間に段々とパーソナリティが出始めるんですよね。それまではなんとなく週1、2回ゼミで会うだけだったのでうまくやれていた人間関係も、長期間一緒にいる中でうまくいかなくなる瞬間がくるんです。私としては、そこで学生それぞれに、問題に直面した際どう感じ、どう対処するのかなど、自身のパーソナリティや適性を確認してほしいなと思っています。

では、先生としては、ゼミ活動を通して自身のパーソナリティを知り、それを将来のキャリアにも繋げてってほしいなという思いがあったり?

佐々木)ありますね。自分の適性というのは、何かきっかけがないと分からないと思っています。そして、それを確認できるのはおそらくゼミ活動しかないだろうとも。人生において、完全にフラットな関係、同い年で同じ立場で自分のパーソナリティが出る空間ってゼミしかないと思うんですよね。社会人はもちろんのこと、サークルやバイトでも上下関係はありますし。なので、学部時代のゼミは自身のパーソナリティや適性を見つける最高の場だと思っています。

堀内)確かにそうですね。ゼミは個々のモチベーションがみんな違う。就職活動に活かしたいと思いゼミに入る人もいれば、友達を作りたいという思いで入った人、なんとなく皆やってるからやろうって人もいる。一方で、本当にそのゼミで専門知識を学びたくて入った人もいるし。そういうモチベーションがそれぞれ異なる中で、特に海外現地調査のような過酷な状況で1週間皆で1つのことをやるって、ものすごくパーソナリティがでるし、モチベーションの差も顕著に現れたなと思います。

堀内さんは当時その問題にどのように向き合ったか覚えていますか?

正直なところ、当時はゼミ長としてその問題を上手く調整できたかというと、そうではなかったように思います。私にとって、ゼミという存在は、みんなで協力してなにかやり遂げる場所というよりは、自分がやりたい研究を行う場所だったんです。なので、当初は我関せずだったのですが、ゼミ長として先生と話す機会があったり、ゼミ生全員に先生がくださったメールを読んだりして、反省した記憶があります。

当時のゼミでの活動経験を通し、何か気付きはありましたか。

はい。私は元々、皆で協力して何かをすることが苦手でしたが、チームの皆と協力することの大切さをゼミから学んだと思っています。特にそれを実感したのが、実はゼミ活動終了後の4年生の卒業論文制作から大学院時代なんですけどね(笑)。毎日図書館にこもって卒業論文を執筆したり、大学院での研究ももちろん1人なので、とても孤独で、大変で。そういう時に皆がいたら、こういうところを助けてくれたなと仲間の大切さを強く感じました。そこでゼミ活動を振り返ってはじめて、とても貴重な経験だったと分かりました。

堀内さんが選んだ研究テーマについて

3年次のゼミでは皆さんで「タイ」について研究をされ、卒業論文では「モンゴル」について研究をされたそうですが、モンゴルに着目した理由を教えてください。

元々、環境問題そのものに興味があったため、研究テーマで取り上げる国へのこだわりはありませんでした。3年次のゼミでは、質のいい研究をするために佐々木先生が多くのコネクションを持っていらっしゃるタイで研究をする方が良いだろうと考え、タイについて研究していました。卒業論文でモンゴルに着目したのは、学生時代のインターンでモンゴルに行く機会があり、その際に環境汚染問題を身にしみて感じたことが理由です。インターンでお世話になったモンゴルに少しでも何か貢献できればという思いがあり、卒業論文の研究をモンゴルで行うことにしました。

堀内さんが実感されたモンゴルの環境汚染問題についてもう少し詳しく教えていただけますか。

モンゴルの首都ウランバートルは盆地になっています。その盆地を取り囲むように、地方から流入してきた小規模牧民による都市貧困地区(ゲル地区)が形成されているのですが、モンゴルの冬はとても寒いので、皆移動式住居であるゲルの中で石炭ストーブを使用し暖をとるんですよね。そうすると、ゲルから出た石炭の煙が、盆地の中にたまってしまうので、冬は特に空気がとても悪くなるんです。

堀内さんが執筆された卒業論文は、当時経済学部長賞、三重野康・高木友之助記念学術奨励賞を受賞しています。
モンゴルの伝統産業である牧畜を世帯間経済格差により維持することができなくなった牧民世帯が、都市部へ移動することで深刻な都市問題が生まれてしまっている状況に注目。実際にモンゴルの首都ウランバートル近郊のゲル地区にてヒアリングを実施され、労働生産性の格差要因を導き出し、モンゴルの小規模牧民世帯の持続的な牧畜経営のための政策的含意を提案されていました!

堀内さんは経済学部が用意する給付型の奨学金も上手に利用されており、この研究にあたっては経済学部創立百周年記念奨学金に申し込み、研究費に充てたとのことです。

学生時代にパッションを見つけてほしい

学生時代のお話を色々と伺いましたが、総括すると堀内さんはご自身をどんな学生だったと思いますか。

とてもアクティブな学生だったと思います(笑)サークル、バイト、インターンもしましたし、海外も沢山行ったし、ゼミ活動も頑張った、とにかく色々動き回っていましたね。

キャリアに迷う学生に是非一言アドバイスをお願いします。

とにかく、学生時代のうちに自分の足をつかって沢山動いてみてほしいです。色々な国に行って、色々な人と関わって、色々な文化に触れて。積極的に動いて、自分自身が何に心を動かされるのか、何にワクワクするのか、モヤモヤするのか感じ取ってほしいと思います。そうすれば、自分が何をやっている時が楽しいのか、人生をかけてどういうことに取り組んで行きたいか自然と見えてくるのかなと思います。大学時代を“なんとなく”で過ごし生きていくこともできますが、是非ほんのちょっと積極的になって、時間のある大学時代にしかできない経験を沢山して、心を突き動かされる“自分のパッション”みたいなものを見つけてください。

ありがとうございます。最後に、堀内さんご自身の今後について伺いたいと思います。現在は現場側でご活躍されていらっしゃいますが、将来はマネジメント側に立つこともかんがえていらっしゃいますか?

そうですね・・マネジメントというのは大事だとは思っています。特に、マネジメント力という意味においては現在でも1つのプロジェクトを実行するために求められる力でもあるので。ただ、国際協力という観点で言えば、やはり私は現場にいる方が好きなので、今のところいわゆる政策を検討するようなマネジメントの立場に移ることは考えていません。ただ、佐々木先生もそうだと思いますが、この業界ってマネジメント側の立場と現場でプロジェクトを実行する立場を行ったり来たりしている人が多いんです。きっと、それぞれやりがいや難しさが違うのでいつかはマネジメント側に立ちたいと思う日も来るのかと思いますが、それまでは現場に立ち続けたいと思いますね(笑)

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