今回は亀井伸治先生に取材をさせていただきました。
経済学部では、国際教養Dの授業やドイツ語の授業をご担当。私自身も1年次にドイツ語を教わりました。
―専門分野ではどういった研究をされていますか?
十八世紀末のドイツ語圏の娯楽小説、特に〈恐怖小説〉というジャンルの研究をやっています。このジャンルは、同時代の英国で流行した〈ゴシック小説〉のドイツ版です。
ドイツは、十九世紀の国家統一の際に、富国強兵政策のもとで「一流の国には一流の文学を」という考えになったので、低級文学と高級文学が分けられてしまいました。そのため、サブカルチャー的な低級文学は馬鹿にされて研究されていませんでした。
現在もまだ割と高級低級に分かれていて、200年前の、いわば“火曜サスペンス”や“ホラー小説”のような〈恐怖小説〉も真面目な研究の対象から外されていました。
ところが1980年頃から、イギリスやカナダの研究者がこの分野を研究しだしたんです。それで、今世紀に入ると、ようやくドイツ本国でも研究され始めました。研究者の方がまだあまりいらっしゃらない開拓途上の分野であり、ドイツ文学史の空隙になっている部分なので、それを埋めていく楽しみと歓びがあります。
研究者の方はもちろん、もっと一般の方々にも知ってもらえるようにもなったらいいなと思っています。
―先生が研究されているような小説を読むのは難しいですか?
この時代のドイツ語は、少し綴りが違うだけで、文法は現在とあまり変わりません。
大学一年生で習うドイツ語文法をひととおりマスターすれば、辞書を引きながら読めなくはないです。字体も今と違ったりしますが、それも覚えればすぐ読むことができますよ。
当時の書物は、文字だけでなく、素敵な挿絵もいっぱい入っていて、魅力的です。〈恐怖小説〉では、幽霊やお化けが出てきたり、秘密結社が暗躍したりします。
-どういった経緯で専門分野にご興味を持たれたのですか?
早稲田大学の法学部に現役で合格したのに、とてもいい加減な学生で何年も留年しました(笑) 。なんとか卒業して『世界の車窓から』などを作っていた、番組・CMの制作会社に就職しました。しかし、法学部出身ということで法務ばかりやらされて、すぐに飽きちゃって、また大学に戻ってしまいました(笑)。
一応、後で会社に復帰する予定だったんですけど、いろんな成り行きでそのまま大学院に。それからドイツに留学もしました。
今の専門になったのは30歳くらいの時です。フリードリヒ・シラーの研究者で、現在は大阪大学名誉教授の石川實先生のご論文で、ドイツの〈恐怖小説〉というジャンルの存在を知り、興味を持ったことがきっかけです。
-留学に行くことにどういった意義があると思われますか?
目的や勉強しているレベルによっても違うとは思いますが、ぼくの場合には、自分の研究分野の作品がどんな風土から生まれてきたのかというのを肌で感じられたことが大きかったです。それに、異国に何年か居ると、日常生活とか、観光だけじゃ分からない事も分かってきます。
―授業の内容はどういうものでしょうか?
ぼくは前職で映像の会社に勤めていたくらいなので、映画が大好きです。
今年の後期の授業では、イタリアのルキーノ・ヴィスコンティがドイツを扱った作品について講義します。ドイツの近代史を題材にしたヴィスコンティの映画を観てもらい、その背景にある歴史的経緯や政治・文化についてお話しします。
―ゼミの学生はどういったことを勉強されていますか。
募集の際に研究計画を出してもらっていることもあり、ゼミ生は一人しかいないですが、ゼミ自体は、基本的にすごく緩いです(笑)
前の代のゼミ生は、ドイツ・ロマン主義の作家E.T.A.ホフマンの研究をしていました。
いまの代のゼミ生は、映画『ブレードランナー』の原作者フィリップ・ K・ディックの『高い城の男』という小説でゼミ論を書く予定です。この小説は、「第二次世界大戦でドイツと日本が勝っていたら」という、もしもの世界を描く歴史改変SFでは有名な作品です。
―趣味を教えてください!
学生時代はバイクが好きでした。東京から郷里の奈良まで走って、紀伊半島を縦断し、新宮からフェリーで東京に戻ったこともあります。 最近また買いたいなと思いましたが、もうジジイだからと、妻に止められました(笑)。
あと、ひじょうな古楽マニアで、特にバロック音楽を愛好しています。極端な話をすれば、フランス革命以降の音楽が全部消滅してもまったく平気です(笑)。iPodに入っている音楽も全部バロックとルネサンスの音楽で、いつも電車やモノレールで聴きながら大学に通っています。
-学生時代にやるべきことは何だと思いますか?
何か熱中できることを見つけることが大切だと思います。専門の勉強だけじゃなくて、興味のあるものがあれば何でもやれば良いんじゃないかと。
僕は20代の間、怠惰に無為の日々をおくっていたので、後でその分を取り返そうとしたときに時間と労力がすごくかかりました。20代は、やればやるだけ吸収できるので、4年間をいかに濃密に過ごすかで、その後の人生がすごく変わると思います。
―最後に中大生にひとことお願いします!
ラ・ロシュフコー公爵の箴言のひとつに、「老人というものは好んで教訓をたれたがるものなのだが、それは悪い手本を人に見せることができなくなったことを自ら慰めようとするためである」というのがあります。なので、ここでぼくが学生さんに何か言うことはやめておきます(笑)
取材後記
亀井先生はとてもユーモアがあり、すごく楽しませていただきながら取材することができました!(笑) 授業の時では分からない先生の一面を知ることができて嬉しかったです。
先生のコレクションの本は、自分のような素人でも分かるほどの、博物館で目にするような年季の入った装丁のもので、貴重な体験をさせていただきました…!(写真右|学生記者:鈴木)